URUSHI OHTAKI 漆の基礎知識

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HOME>漆の基礎知識(第10話〜第11話)

-- アイテム別 --

漆器<皿・プレート類>

漆器<鉢・小鉢・菓子器類>

漆器<盆・膳類>

漆器<食卓小物類>

漆器<茶器・香合・花器>

漆器<箱・小箱類>

漆器<額・壁掛け類>

漆器<アクセサリー・その他>

-- 価格別 --

  • 2,000円未満
  • 2,000〜3,000円台
  • 4,000〜5,000円台
  • 6,000〜10,000円未満
  • 10,000〜13,000円台
  • 15,000〜20,000円未満
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  • 30,000円台
  • 40,000〜50,000円台
  • 60,000円以上
  • 漆のおはなし

    日本を代表する工芸でありながら、漆については、案外知られていないことが多いのではないでしょうか。漆職人として、30年この生業に携わった経験から、漆についての様々なお話をまとめてみました。全11話構成です。

    第1話〜第3話 第4話〜第6話 第7話〜第9話 <第10話〜第11話(最終話)>

    第10話 「越後の地に根づいた漆の技法とは?」 ― 新潟漆器と村上木彫堆朱 ―

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    磯草塗の角盆
    竹塗の重箱
    堆朱角菓子器(盆付)
    堆朱硯箱(ひょうたん)
    彫漆茶筒
    彫漆文台(菖蒲)
    朱溜平棗

     先回は、漆の加飾法について、その代表的な「蒔絵」「沈金」などや、全国の各地にさまざまな「変わり塗り」があることをお話ししました。主なものをあげると、津軽塗(青森)、秀衡塗・浄法寺塗(岩手)、鳴子漆器(宮城)、能代春慶・川連漆器(秋田)、会津塗・喜多方漆器(福島)、江戸漆器(東京)、鎌倉彫・小田原漆器(神奈川)、高岡漆器(富山)、金沢漆器・輪島塗・山中漆器(石川)、越前漆器・若狭塗(福井)、静岡漆器(静岡)、木曽漆器(長野)、飛騨春慶塗(岐阜)、京漆器(京都)、奈良漆器(奈良)、紀州漆器(和歌山)、大内塗(山口)、香川漆器(香川)、久留米籃胎漆器(福岡)、琉球漆器(沖縄)など、その多さに驚かされます。

     ところで、わが郷土である新潟県にも、新潟市に「新潟漆器」、村上市に「村上木彫堆朱」という2つの産地があることはご存じですよね。それぞれにどういうものか、その技法について、少しご紹介しましょう。

     まずは「新潟漆器」ですが、江戸時代から伝わる「花塗」「石目塗」「錦塗」「磯草塗」「竹塗」という5種類の塗り技法が、国の伝統的工芸品に指定されています。。

     「花塗」については、第四話の中で、漆塗りの仕上げ方法に「磨き仕上げ」と「塗り立て仕上げ」があるというお話をしましたが、その「塗り立て」が別名「花塗」とも呼ばれ、油分を入れた漆を最後に厚めに塗って、とろりとした柔らかい艶を出したものです。

     「石目塗」は、漆を塗り、完全に乾かないうちに「炭粉」を蒔きつける技法で、ざらざらした質感が特徴です。傷がつきにくく丈夫な、実用的な漆器です。

     「錦塗」は、青森の「津軽塗」とよく似ています。麻ひもを束ねたタンポを使い、漆を叩くように塗って型置きをしてから、何色かの色漆を塗り重ね、さらに錫粉(すずふん)を蒔き、顔料の入らない透明な漆を最後に塗ったあと、平らに研いで独特の模様を出し、磨いて仕上げたもので、とても手間がかかります。

     「磯草塗」は、錦塗とほぼ同じですが、卵白を混ぜた漆を回転させるように叩き塗りして、海藻が波間に揺らいでいるような模様をつくり出すものです。

     「竹塗」は、新潟漆器を代表するものとして、全国でも名を知られています。水練り砥の粉に生漆を加えた「錆」という下地で、竹の節のような形を作り、朱漆を塗った後、真菰(まこも)の粉を蒔いて、竹の煤けたような表情をつくるのが特徴です。

     このほかにも様々に工夫した塗り方が考案されていて、新潟漆器はまさに「変わり塗りの宝庫」と言えるでしょう。

     さて、もう一つの「村上木彫堆朱」ですが、この「堆朱」(ついしゅ)という言葉の意味が、きちんと理解されていない場合が多いようです。本来「堆朱」というのは、塗った漆の層を彫る技法で、「彫漆」(ちょうしつ)の一種。鎌倉時代の頃、中国から日本に伝えられました。朱の漆を数百回も塗り重ね、厚くなった層の部分に、文様を彫刻刀で彫っていきます。言うまでもなく、これをつくるには相当に長い月日が必要です。村上の場合は、木彫りをした後に数回朱漆を塗り重ねることで、本来の堆朱の趣を出そうとしたものなのです。

     ところでこの「村上木彫堆朱」の特徴の一つは、たいへん細やかで繊細な彫りにあります。これには、「裏白」(うらじろ)と呼ばれる、V字形の両刃の彫刻刀を、押したり引いたりと自由自在に動かすことで生まれる彫りで、とくに一段引き下げた地の部分に施す、幾何学的な「地紋」(じもん)は見事です。

     それともう一つの特徴は、磨かずにわざと艶を消した仕上げにあります。いったん艶消しをしたものが、長年使っているうちに、逆にしっとりと上品な艶が出て、とても味わい深いものになるのです。

     ちなみに、この朱漆の代わりに黒漆を用いる場合は、「堆黒」(ついこく)、また朱漆を塗って仕上げた後に「透漆」(すきうるし)をかけ、下の朱色が、ほんのりと半透明の透漆を通して見えるようにしたものを、「朱溜」(しゅだめ)と言います。

     そのほか村上には、俗に「三彩彫」(さんさいぼり)と言われるものがあり、これは、朱・黄・緑と色漆を重ね塗りし、最後に黒漆で仕上げて磨いた後、削り出すように文様を彫っていくやり方で、いわゆる「彫漆」の一種です。またいろいろな色の漆を、最初ガラス板に塗り重ね、ある程度厚みができた後でガラス板を外し、さらに色漆を重ねて百パーセント漆だけの厚い板を作り、それを小さく切ってグラインダーなどで削り、磨いてアクセサリーなどをつくる「堆漆」(ついしつ)もあり、いずれも伝統的工芸品として、数百年の伝統を今に伝えています。

    第11話 「器を長く使い続けるために」 ― 漆かぶれ・漆器の修理・金継ぎ ―

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    蓮華立(修理前)
    蓮華立(修理後)
    金継ぎを施した染付皿
    金継ぎを施した茶壺

     この連載も、いよいよ最終回となりました。これまでは職人として、主に器を作る立場から漆について語ってきましたが、専門的な領域に踏み込みすぎて、わかりづらい部分も少なからずあったかもしれません。お許しください。最後のきょうは、使う立場からみなさんが持たれるであろう素朴な疑問にお答えしたいと思います。

     まずは、「漆」というと、まっ先に連想されることの多い「漆かぶれ」についてです。ご存じのように、生の漆液に直接肌が触れて気づかずにいると、翌日その部分に発疹ができ、たまらなくかゆくなります。また直接触らなくても、漆の木の下を通ったり、漆の臭いをかいだだけでかぶれる人もいます。これは漆液の中の成分が、皮膚のタンパク質と反応して起きる炎症で、つまり漆が乾く過程で生じるため、漆が完全に乾いてしまえば、どんなに弱い人でもかぶれることはありません。よく「買ったばかりの漆器を使ったらかぶれた」というのは、まだ漆が塗膜の中まで完全に乾ききっていないからです。

     こういう出来たての漆器は、臭いも気になるでしょうから、1週間ほど米びつの中に入れておくとか、少量の酢を加えた米のとぎ汁を、柔らかい布につけて拭き、ぬるま湯で洗うとよいでしょう。また漆にかぶれたときの対処法としては、昔から一番効果があるとされているのが、山間の渓流に棲む沢蟹の汁を塗る方法です。しかし、そのために沢蟹を捕りにも行けないでしょうから、病院に行ってかゆみ止めをもらうのが良いと思います。ただ漆かぶれそのものを治す薬はなく、さほどひどくなければ、放っておいても1週間程度で治り、跡が残ることもありません。

     さて、漆器の取り扱いについても、よく質問を受けます。人によっては、まるで腫れ物にでも触るように、上等な絹布でそっと乾拭きし、和紙に包み、桐箱に入れて戸棚にしまっておかなければならないと思っている方もおられるようですが、これまでお話ししてきたように、漆はそれほど柔なものではなく、出来立てこそ表面が傷つきやすいものの、1年くらいも経つと、表面の漆が枯れ、意外に丈夫なものです。毎日使う箸やお椀などは、流水でジャブジャブ洗っても、また中性洗剤などの使用もオーケーです。

     ただ一番避けなければならないのは、直射日光と乾燥、そして急激な温度の変化です。水分をよく拭き取っておくこと、そしてガスレンジの脇や直射日光が当たる場所、乾燥する部屋の天袋などに置かない、つけ置きはしない、電子レンジや食洗機にかけない、などの注意も必要です。

     もし万が一、汚れが取れなかったり、艶が消えたり、傷がついたりした場合でも、塗り直しなどの修理ができ、直しながら末永く使えるのが、漆器の優れた点でしょう。ただし、木地そのものが狂って変形しているものや、下地が著しく弱いものは修理できません。また何らかの加飾がされているものは、基本的にはそれを製作した産地なり作家なりに修理してもらうのが良いと思います。ものにより新しいものを買う方が安い場合もありますので、修理を依頼するときは、まずは現物を見せて相談されることをお勧めします。

     最後に、割れたり欠けたりした陶磁器やガラスなどを、漆と金で修理する技術「金継ぎ」(または「金繕い」「金直し」とも言います)について、簡単にお話ししましょう。

     漆は塗料であると同時に、優れた接着剤でもあります。一度乾いた漆は、塩分、アルコール、酸、アルカリなどどんな液にも溶けず、多くの合成接着剤が開発された現在でも、漆ほど安全で強力なものはないと言っても過言ではないでしょう。その優れた漆の性質を生かして、水で練った小麦粉に生漆を練り合わせた「麦漆」(むぎうるし)で陶磁器などの割れや欠けを直し、その修理箇所を下地や中塗りで滑らかにした後、最後に漆を塗り、金粉を蒔いて仕上げるのが「金継ぎ」で、最近とみに人気です。

     「ものを大切にして、修理しながら長く使う」というこの考え方は、使い捨ての時代から、スローライフが提唱される時代へと移ってきた現在の、人々の生活感覚にも沿ったものです。そしてそれのみならず、壊れた部分をなるべく目立たないようにする西洋式の修理に対して、金継ぎはわざと修理箇所を金で強調することにより、完全無欠なものよりも「不完全な美」を良しとする「わび」「さび」の精神が根底にあって、これはもう単なる「修復」という実用を超えて、日本文化のひとつの形でさえあると思います。それほど高価なものでなくても、長く愛用してきたものや思い出の品などは、ぜひこの金継ぎをして、末永く使いたいものですね。

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